49 49. Son of the lord.
49 49. Son of the lord.
歳は……20手前、俺と同じくらいだろうか?
男だけど、金色の髪を長く伸ばしている。
それでも違和感なく、男の容姿を引き立てている。
俺が女性ならば、ついつい見惚れていたかもしれない。
でも、なぜだろうか?
周囲の街の女性達は、彼に見惚れるどころか、イヤなものを見るような視線を送っている。
女性達だけではなくて、男も同じだ。
まるで汚物を見ているような反応だ。
いったい、誰なんだ?
「聞こえているのか、おい」
「なんだ?」
「お前ではない。そこの二人だ」
「ソラのことですか?」
「む? 我のことか?」
きょとんとするソラとルナに、男が歩み寄る。
「お前たち、名前は?」
「……いきなりなんですか?」
「いいから答えろ。この俺が聞いているのだぞ? ほら、どうした。名前は?」
「……ソラです」
「ルナだ」
「ふむ。ソラとルナか……良い名前だ。外見も悪くないし、遊びがいがありそうだ。気に入ったぞ。よし、今日からお前達は、俺の女にしてやろう!」
「「は?」」
突然の男の宣言に、ソラとルナが揃って、ぽかんという顔をした。
こいつは何を言っているのだろうか?
口にこそしないものの、そんなことを言いたそうだ。
「こいつは、突然何を言っているのだ? アホなのか? 頭大丈夫か?」
うわ。
ルナは本当に口に出している。
しかも、俺が思っている以上にきつい言葉を口にしているぞ。
しかし、男は怒ることなく、むしろ楽しそうに笑う。
「くくく、この俺にそんな口をきけるなんてな。いいぞ、楽しいじゃないか。そういう方が躾甲斐があるというものだ」
「この人、人の話をまるで聞いていませんね……自分だけの世界に浸っている、という感じです」
「率直に言って、キモいな……レインよ。なんとかしてくれ」
不気味なものを感じたらしく、ソラとルナが俺の後ろに避難する。
俺は二人をかばうように前に立ちながら、男に問いかける。
「突然、何を言っているんだ? あんた、一体、何者なんだ?」
「男と話をするつもりはないが……まあいい。貴様、この俺を知らないのか?」
「わからないから、こうして問いかけている」
「ふん。この俺を知らないなんて……他所から紛れ込んできた田舎者か? いいだろう。ならば、教えてやる。俺は、このホライズンを治める領主の息子、エドガー・フロムウェアだ!」
「領主の……?」
「ソラとルナと言ったな? 俺の女になれることを、光栄に思え。今まで味わったことのない贅沢をさせてやるぞ」
「この人……とてもイヤな感じがします。話に聞く人間のイヤな部分を詰め合わせたような……そんなイヤな感じがします」
「あいにくだが、ルナはお前のようなヤツについていくことはないぞ。我の主は、レインなのだからな」
「ふんっ。お前達の意思は関係ない。俺がこうすると決めたのだ。なら、お前達は素直に付いてこい」
まるで話にならない。
こんな横暴を真顔で言ってのけるなんて……
この男、本当に領主の息子なのか?
とてもじゃないけれど、そのような器には見えない。
「さあ、行くぞ。着いてこい。たっぷりとかわいがってやる」
「人の話を聞いていないのですか? お断りです」
「同じく、なのだ。ルナは、お前のような人間は嫌いだぞ」
「あまり手間をかけさせるな。お前達に拒否権はないぞ。その辺り、わかっていないようだな?」
男……エドガーが指をパチンと鳴らした。
どこからともなく、剣と鎧で武装した兵士達と軍用犬らしき犬を連れた者達が現れる。
エドガーの護衛なのだろう。
あるいは、こういう時のために引き連れていたのか。
「おい、男」
「俺のことか?」
「別に、タダでよこせとは言わん。きちんと対価を払おう。一人、金貨100枚……計、200枚でどうだ?」
「……」
「それと……痛い目に遭いたくないだろう? この人数だ。相手にするのは、無謀というもの」
「……」
「付け加えるならば、俺は領主の息子だ。それなりの権限を与えられている。俺に逆らうということは、領主に逆らうということ。反逆罪に問われたいか?」
周囲の人々が同情の視線を送ってきた。
……なるほど。
ホライズンでは、エドガーの悪行は多くの人々に知られていることなのか。
さきほどのエドガーに対する周囲の人々の視線の意味を理解する。
「女を連れて行け」
エドガーの命令で、兵士が二人、こちらに歩いてきた。
ソラとルナの手を掴もうとして……
「やめろ」
兵士達の手を払う。
「「レインっ!」」
ソラとルナの目が輝いた。
「……お前は、人の話を聞いていなかったのか? それとも、俺の話が理解できないほど阿呆なのか?」
「お前こそバカなのか? ソラとルナを渡すなんて、俺は、一言も言っていないぞ」
「貴様……!」
「ソラとルナは大事な仲間だ。金で引き渡すような真似はしない。それ以前に、人間の腐ったようなヤツに女性を引き渡すわけがないだろう」
「俺の言葉を理解していないようだな……馬鹿め。反逆罪で始末されたいか?」
「仲間を売るくらいなら、反逆罪に問われた方が何倍もマシだ」
「……いいだろう。その言葉、後悔するなよ?」
エドガーが合図を送るように手を挙げる。
それを見て、周囲の人々が慌てて距離を取る。
「やれ」
俺達が逃げられないように、兵士達が包囲網を敷いた。
その上で、二人の兵士が鎧を鳴らしながら歩み寄ってくる。
動きに迷いがない。
こいつら、慣れているな……
「さあ、エドガー様の命令に従え。それがこの街の掟だ」
「悪いが、断る!」
「がっ!?」
無防備に歩み寄ってきたので、顎を蹴り上げてやる。
ほどほどに加減はしておいたものの、兵士はそのままひっくり返り、昏倒した。
「貴様っ!」
「我らに歯向かうかっ」
仲間がやられたことで、残りの兵士が一斉に剣を抜いた。
周囲の人々から悲鳴があがる。
兵士が二人、一直線に斬りかかってきた。
が、遅い。
アリオスと比べると雲泥の差だ。
一人目の兵士の手首を狙い、蹴撃を叩き込む。
骨を砕く感触。
兵士は苦悶の声をあげて剣を落とし、その場で膝をついて折れた手首を押さえた。
俺は駒のように片足を軸にして、そのまま回転。
半円を描くようにして、二人目の兵士の側頭部を打つ。
兜が凹み、その衝撃が兵士の頭部を襲う。
兵士はふらふらとよろめいて、うめき声をあげて……そのまま倒れた。
「こいつ……!?」
「強いぞっ」
瞬時に返り討ちにされたことで、兵士達の間に動揺が広がる。
そんな部下達の姿を見て、エドガーは苛立たしそうに舌打ちをした。
「何をしてるっ! 相手は一人だ、しかも女をかばっているのだぞ!? それなのに、その様はどういうことだ!? このまま情けないところを見せるようなら、俺にも考えがあるぞ!」
「「「っ!?」」」
雷に撃たれたように、兵士達がビクリとなる。
躾のために、鞭で打たれる動物によく似ている。
もしかしたら、兵士達もこんなことは本意ではないのかもしれない。
領主の息子という相手に逆らうことができず、嫌々ながら従っているのかもしれない。
……が、俺には関係ないことだ。
加減はしてやるが、おとなしく捕まってやるつもりなんて欠片もない。
強者に逆らえないからといって、他者に刃を向けていいなんて道理は通らないからな。
「ふっ、はっ……せい!」
関節部を狙い骨を砕いて、背中から地面に投げ飛ばして、鎧を陥没させるほどの一撃で昏倒させて……
次々と襲い来る兵士達を素手で迎撃する。
一人、また一人と減り……気がつけば、敵は半分になっていた。
「ちっ、無能共が」
「し、しかし……エドガー様。相手は、相当な手練……我らが相手では、なかなか厳しいものが……」
「黙れっ、これ以上俺を苛立たせるな!」
「ひっ」
「相手が強いというのならば、戦い方があるだろう」
「と、いいますと……?」
「女を狙え! 少しくらいは傷をつけても構わん。女をかばうなら、動きが鈍るはずだ! それくらいもわからないのが、このグズ共がっ!」
エドガーに叱咤された兵士達は、今度はソラとルナもターゲットに加えて、四方八方から斬りかかってきた。
8mi